連句にオーディオコメンタリーがついてたらいいな 石原ユキオ

連句にオーディオコメンタリーがあったら嬉しい。

オーディオコメンタリーというのは映画のDVDやブルーレイディスクの特典としてしばしばつけられる、副音声解説のことである。大抵は監督や出演者が2人か3人で撮影中の苦労話や工夫した点などを映画の進行に合わせて(実況する感じで)語ってくれる。視聴者のわたしはそれを聴いて映画の理解が深まったり、いまいちな演出に対して「それなら仕方がないなあ」と許せる気持ちになったり、スタッフとキャストの作品への愛に胸を熱くしたりするのである。

連句も複数人で作るものだし、映画のように場面がどんどん変わっていく要素があるので、オーディオコメンタリーという発想は相性がいいように思うのだ。

音声による連句の解説としては、YouTubeの「連句ゆるりチャンネル」で公開されている「【2021年上半期】読んでよかった連句作品トップ3」という動画がある。画面に連句のテキストが表示され、連句作品を音読かつ解説する動画だ。高松霞さんがひとりで解説している点と、自身が制作に関わった作品を取り扱っているのではないという点で一般的な「オーディオコメンタリー」とは異なるものの、わたしのイメージしている「連句のオーディオコメンタリー」にわりと近い。

わたしのイメージする「連句のオーディオコメンタリー」はこうだ。参加者は捌き1名と連衆の中から1名か2名、合計2〜3名。画面には「表六句」などの部分ごとにテキストが表示され、誰かが音読する。そして、何を意図してその句を選んだのか、長考の末出てきたのか即吟かつ即決※だったのか、といったことを思うままに喋る。また、連句そのものと直接的には関係ないエピソードトーク(このあたりまで作ったところで会場の暖房が壊れて震えながら続けたとか)も大歓迎だ。

なにがなんでも音声で解説してくれと思っているわけではなくて、読解を助けてくれるようなカジュアルな解説であれば文字でもいい。たとえば宮内悠介の『偶然の聖地』という小説は、ページの上下の普通なら余白になっている部分に細かく注釈が書き込まれている。書評家の大森望は文庫本の帯文でそれを「オーディオ・コメンタリーのように親密な321個の注釈」と表現している。そんな感じで連句の上下にぎっしり解説や裏話の載ったペーパーが販売されたりしてほしい。買います。

わたしは連句に参加したことは片手で数えられるほどしかなく積極的に学んだこともないのだが、信頼できる誰かに捌きをやってもらって「こういう条件の句を出して!」という指示のもとせっせと句を作り採用されたりされなかったりするのは楽しい。一方で、完成した連句を見たときに、詳しいひとの解説がほしいなと感じることが多い。なんか、もうちょっと手助けをしてもらえたら、さらにおもしろがれそうな気がするのだ。

連句の動画を上げているYouTuberのみなさん、「連句のオーディオコメンタリー」お待ちしています。

◯石原ユキオ(いしはらゆきお)
憑依系俳人。俳句同人「傍点」所属。二〇二一年より「俳句生活安全缶バッジ」制作・販売。気が向いたときにネットプリント『副産物の会』を発行しています。
YouTube「泣きみかん放送協会」https://www.youtube.com/@nakimikan
ブログ「石原ユキオ商店」https://d-mc.ne.jp/blog/575/

(編集部注)高松も門野も「即吟とは言わないよな」「連句は基本的に即吟即決ですもんね」という意見だったんですが、「でも意味がわかるからいいか」という判断をしました。