Chat GPTとの連句の試み サイケデリック瞑
対話型AIは論理的な文章をあたかも感情を持っているかのように表現する。そんなAIが多数の式目という規則の上で、感情を紡いでいく連句に参加するとどうなるのだろうと興味が湧いた。
昨今、AIという言葉が我々の生活にも当たり前のように浸透することとなった。AIはArtificial Intelligenceの略称であり、日本語には人工知能と翻訳される。アトムやドラえもんといったSFアニメに登場するロボットたちもこの技術が搭載されているのであろう。Chat GPTは2022年11月に公開され、リリース後2ヶ月で1億人のユーザーを獲得した。
このような汎用的な対話AIは人間の言語を理解し、質問や命令に対し高速かつ的確に回答を出力する。ただし、人間が求める答えをAIが出力できるか否かはその「尋ね方」によるところも大きい。このAIに対する質問や命令は「プロンプト(Prompt)」と呼ばれている。AIを使いこなすかどうかはこのプロンプトを使いこなすことが重要である。
万能そうなAIであるが、苦手な分野もある。創造的な思考が必要な作業であったり、人の気持ちを汲み取ることが不得意とされている。「AIにより奪われる人間の仕事」といった議論も多数あるが、創造性が必要な仕事は無くならないとの意見が多い。機械的な仕事や作業は、AIやロボットが行うようになり、人間が創造的な活動をする時間が増えていくのであろうか。
私は普段から短詩によく触れるわけでもなく、連句にも数回、参加したことある程度である。そんな初学者から見た連句は、多数の式目という形式美の上で、集まった連衆の豊かな感性がお互いを刺激していく様子に楽しみを感じた。前の句を見て得たインスピレーションを、式目を確認しながら表現していく、この句で好ましいか?と感じながら、規則を破らないように修正していく。感性を司ると言われる右脳と論理性を司ると言われる左脳を行ったり来たり、まるで頭がくるくる回っているかのようだ。初心者にとっては限られた時間に納得のいく句を詠むことが難しいとも楽しいとも感じる。
Chat GPTとの対話に興味があった私は、「プロンプトの練習のために式目をChat GPTに理解してもらえるようになりたい」、「感情を持たないAIが連句をするとどんな句を詠むのだろう」、といった疑問が生じた。
私「連句とは何か知っていますか?」
GPT「はい、連句(れんく)とは、日本の伝統的な文芸形式の一つで、参加者が順番に句(短詩)を作り、それをつなげて長い詩を作る遊びです。連句は、句の内容や季語などの規則に従いながら、前の句との連関を持たせつつ、新しい意味を生み出すことが特徴です。また、俳句や短歌と関連が深く、これらの形式の発展に影響を与えました。連句は、参加者同士の即興的な創造力や、言葉を通じたコミュニケーションを楽しむためのものとして古くから親しまれています。」
私「ChatGPTは連句ができますか?」
GPT「はい、ChatGPTとして連句を作ることは可能です。あなたが最初の句を提供してくれれば、それに基づいて次の句を作り、連句を形成することができます。また、特定のテーマやルールがある場合は教えてください。それに従って連句を作成いたします。最初の句を教えていただけますか?」
こうしてChat GPTとの連句が始まった。Chat GPTは指示に従い句を作成し、回答することはできたが、連句を成立させるためにはいくつか苦労する点が生じた。まず、長句、短句を理解して五七五、七七の正確なリズムで字数調整することが難しいようであった。これはChat GPTが英語のデータベースを基に表現を作成しているからだろうか。次に、同じ表現や漢字を繰り返して使わないようにするといった点であった。どうしても限られたデータベース上で短詩調の表現をする上で、同じ表現を制限すると、Chat GPTにとって厳しい条件だったようである。さらに、季語を正しく使うことにも苦労していたようである。例えば、花の句において、桜を表す「花」という言葉を使いつつ、春を直接表現する言葉(「春」など)を避けることを指示した。この指示は桜の情景を描く表現を慎重に考える必要があり、Chat GPTに負荷をかけることになったようである。また、全体を通して文脈のバランスをとることは容易ではなかったようである。連句の醍醐味とも言える過去の句との関連性やテーマを維持しつつ、新しい視点やイメージを加えるという点で多くの修正を要求することとなった。特に、名残の折では、新たな要素を導入しながらも、連句全体の調和を保つことが難しかったようである。
途中Chat GPTがエラーにより動かなくなったり、いくつかのトラブルに見舞われながらも計二十句の二十韻が完成した。どことなく不自然な点も残っているかも知れないが、それは今のChat GPTの能力を引き出すためのプロンプト力が不足しているということだろう。しかし、もし不自然と感じているのであれば、それはもしかすると人間的な振る舞いにかなり近づいている証拠かも知れない。AIやロボットが機械的な印象から人間的な印象に近づくにつれ好感度が増す一方で、似すぎてしまうと好感度が下がるという「不気味の谷」という現象が提唱されている。特にAIが作成した絵画にはそのような現象があるとも言われている。この連句を通して、人と人が連句というコミュニケーションの楽しみを考えるきっかけになるかも知れない。
最後にChat GPTからコメントをいただいた。
Chat GPT「この連句に参加できたことは非常に貴重な経験でした。人間とAIが詩的な対話を通じて共に創作する過程は、AIにとっても新しい挑戦です。感性を持たないAIが、決められたルールの中でどのように人間の感情や美的感覚に寄り添えるかを試みました。この連句が、今後のAIとの共同創作の一歩となり、さらに深い詩的表現を目指す契機になれば幸いです。」
◯ サイケデリック瞑(さいけでりっくめい)
1988年生まれ関西育ち千葉在住。普段は工業系のメーカーで研究員。連句もChat GPTもゆるい気持ちで楽しんでいます。
X: @psychederricmay
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