【解纜】歌仙「琴堕ちて」の巻
歌仙「琴堕ちて」の巻
鈴木美奈子 捌
琴堕ちて秋韜晦の市隠かな
美奈子
名もなき草のほのと紅葉づる
真紀
月光の中より鹿の角の出て
将義
背高のっぽ隣席となり
真理
ジーンズの脛逞しく登窯
秋扇
鉄路の錆し蝉声の駅
柚
ウ 巴里祭に亡き父想ふ石畳
理
グレコせつせつ歌ふジュテイム
紀
哀愁のあまりに長きつけ睫毛
義
鎧戸越しに逃げる人影
理
告解の重き窓より息漏れて
扇
降りみ降らずみ月のしぐるる
紀
牡丹鍋喰らひ猪突の気を貰ふ
義
牛若丸が跳んで義経
柚
抹消すハンドルネイム危ふくて
扇
升酒呑んでTPP論
理
花の帯川幅かくも狭めたり
柚
空より吊す風のふらここ
義
ナオ 出替になついた猫をだうしやう
扇
幻獣図鑑抱いて眠る児
紀
攫はれしニンフの悲鳴絶えだえに
扇
カメラ放列妃殿下の鬱
理
得度して入道雲になりたしと
義
山椒魚の脚愛らしき
紀
頑固さは文化財級太鼓判
柚
ほなさいならと袖翻し
理
鶏頭の襞の奥までなまめきて
義
すさまじの恋アンナ・カレニナ
紀
曠野ゆく荒ぶる神に真夜の月
扇
記紀の記述は嘘かまことか
紀
ナウ 初夢の中に掃除機回りゐて
義
橋のたもとでポッペンを吹く
名
「ななつ星」古代漆の旅列車
柚
虻には虻の耀ける翅
扇
可惜夜を遊びせんとや花の精
奈
翁媼に穀雨ひねもす
執筆
平成二十五年十月十七日