第2回 月へと向かう戦略を立てよう
大好評企画「連句まめちしき座談会」。発行人の高松と門野が連句についておしゃべりします。
第2回目は「月の座」についておしゃべり。第1回で語った「第三」「四句目」の次の句、「月」の魅力をたーくさん語りました。例句もいっぱい出しましたので、ぜひ最後までご覧くださいね!

門野 月を付けるの好きとかあります?
高松 表の月の座はあんまり得意じゃない……。綺麗な風景句を求められることが多い気がして。
門野 初折と名残とで捌きの方に求められる句がやっぱり違いますか?「ここはこんな感じの月の句で」って言われます?
高松 表はきっちりした月、名残はまあちょっと遊んでてもいいよ、みたいなことが多い気がします。
門野 なるほど。確かにそんなリズムですね。連句の人達とやっていると、暗黙の了解というか、みんなそういうものだと思っていて特に指示は無いままやっている気がします。

月が一緒にいれば輝く
高松 門野さんは月の座いかがですか?
門野 私は月の座、けっこう好きです!
高松 おお、どんなところが?
門野 何を詠んでも綺麗な句になるというか。確かに表できっちりした月の句を作ろうと考えると、ちょっと意気込んでしまって大変なんですが、なんか悲しいこととかちょっと変なことを詠んでも、月が一緒にいれば輝くので……。
高松 おお……! なんか最近採られた月で、なんかないですか。
門野 大阪連句懇話会で、高松さんに捌いてもらったやつで月の句をわたしが出してました。
孑孑が月の波紋になりたがる 門野優
蚊帳の中から母親の声 永山裕美
君のゴミ僕のゴミとを同居させ 岡谷樹
高松 こんないい句あったっけ!
門野 こんないい句があったんです!

他の文芸から学ぶこと
高松 門野さん川柳にも向いているのでは?
門野 自分で作らなくても、川柳や俳句を読んでいろいろ吸収して勉強することはできますね!
高松 あっ、それは本当にそうですね。
門野 特に月の句とか、一句としての屹立性を求められる句の時は、俳句や川柳から学ぶことが多いですね。
高松 他の文芸から学ぶことは多いですよね。
門野 多いですね。発句以外にも、花の句と月の句はやっぱり一句の中でちょっと屈折してる部分を持たせてみたりしたほうが、いい句になりますよね。
高松 あとは流れも大事で。この作品の連なりとか、目線がゆっくり上に向かうのがわかりますよね。
人差指たてれば猫の嗅ぎに来て 伊澤のりこ空缶ばかりテーブルの上 岡部 瑞枝
理科室の壁に月齢表吊られ 西川 菜帆
照葉の並木雨に鎮まる 浅岡 照夫
門野 ふぁ~~なるほど。確かにゆっくり上に向かいますね。映画みたい。
高松 やっぱり表には表の一体感がある。
門野 表の一体感ってどういうことですか?
高松 品があるというか……。
門野 表の句だから、きっちりした品がある句を作ろうとするし、一体感もあるってことですね。表という制約の中で一体感が生まれるというか。
高松 そうですそうです。
門野 そう考えると、どこにある月の句かで、いろいろ変わってきますね!
高松 さきほどの月も、「月齢表」だから、本物の月ではないのですよね。これが名残の月なんですけど……。
嘘つくために拭ふ口紅 のりこ山頂へつづく氷壁月皓と 菜帆
ふくろうは啼く鎧戸は閉づ のりこ
高松 表が本物の月ではない分、名残の月はきっちりやろうって話になったんでしょうね。
門野 なるほど! 一巻に一句くらいはそういう句があってもいいけど、それなら次に出てくる月の句はこんな感じできっちり輝かせよう! みたいな感じでしょうか?
高松 そうですそうです! 本物の月と、本物ではない月、「5月」とか「湖に映る月」とかも本物じゃないですね。
門野 確かに! そういう句は、他の場所で月そのものを詠んだ句があるからこそ、輝いている気もします!

月へと向かう戦略を立てよう
高松 例えば、これとか本物の月ですね。
手すさびに描く線のくねくね 宮川尚子
山の端にくつきり浮かぶ望の月 島田裕
塀の際には乱菊のむれ 長谷川芳子
門野 本物の月ですね。山の端っていう言葉があるから月の丸さとかスケールの大きさを感じますね。
高松 それから、この月も面白いんですけど……。
鍵のない金庫みんなで作りましょ 康子
ドローンで追ふ謎の集団 寿美子
満月は凪の海へと融けてゆき 桜千子
むかしむかしは菊と友達 康子
門野 おもしろいですね~!! 月の前後の句もおもしろすぎる……!!
高松 ですよね!
門野 前後におもしろい句があるからこそ、この月の句は綺麗なだけじゃなくて、不思議さとか奇妙さも孕んでますね。そして余計に美しいというか。
高松 なので、月前、月の打越、ということを考えて付けていくという。
門野 そういう戦略みたいなのもおもしろいですよね。「むかしむかしは菊と友達」って、なんなんでしょう。ここで更に綺麗で美しいことを入れるのではなく、こんな句を続けているセンスが絶妙すぎて……!
高松 あたしたちの康子が……!
門野 はぁ〜!あたしたちの康子が……!

とりあえず楽しもう!
門野 月が入る位置以外に、月の句を作る時のポイントとか、上手い月の句を付けるコツとか他に何かありますか?
高松 えーなんだろう。基本的に、月は美しいもの、という概念がありますよね。綺麗じゃない月も詠みたくなるんだけど、基本的には、月は美しくあれ、と思っています。
門野 わたしも、月は美しく作ろうとすれば、基本的にはそれだけでいいと思います。なんだろう、花の句も美しく作るのが前提なのですが、月の句は一巻に何度もあるし、花の句ほどプレッシャーもないから、付けるのが好きなのかもしれない。
高松 ああ、確かに花より付けやすいですよね。
門野 はい、花より付けやすいけど、花の次に威力がある季語なので、やっぱり句が美しくなりやすい。
高松 月は花よりはちょっと遊んでてもいいですよね。
門野 花よりちょっと遊んでもいいし、表に出た出た月の句を参考にして、そこからどう違う月の句を作るか? というのを考えるのも楽しいですね。
高松 そうそう! 塩梅がむずい。
門野 それを上手くまとめるのが捌きの役目というか……。連衆の時は楽しめるけど、捌きの時は難しいですね!
高松 捌きに任せよう。
門野 そうしよう、とりあえず楽しもう。
