【解纜】世吉「コクトオの耳」の巻
世吉「コクトオの耳」の巻
捌 別所真紀
夏あかつきジャン・コクトオの耳ひろふ
真紀
潮騒とほく星の涼しき
清良
まぼろしの山上﨟を追ひかけて
緋紗
古陶の気品金つぎの碗
哲子
唐うつし鋭き眼差しの鑑定士
鵠舟
いづくともなく六段の曲
菜帆
濡れ濡れと月光流す硝子ビル
清
ワインセラーにひそむこほろぎ
紀
ウ 鳥葬の村に学者の来る寒露
帆
すすき・きちかうデラシネの旅
紗
ひたすらに待つよ甘美な罠仕掛け
同
鞭しなやかにロマの少女は
千晴
逃避行板門店の左右より
舟
黒衣抱へる核の鞄を
帆
凍月のみしみし響く二十五時
晴
義士焼三つふところに入れ
哲
灰猫の如きおのれの安息所
舟
歳の始めの烏鷺の闘ひ
晴
リサイクル百均ワゴン立志伝
紀
つひにばれたか闇の財投
舟
疎開児の植えし三春の花愛し
哲
はつかに萌ゆる外苑の芝
清
ナオ 小町忌のゆるゆる解けし忘れ霜
紀
ゆさはりで聴く外っ国の唄
晴
マスターの深煎り珈琲媚薬とも
帆
わたしの背骨を弾くピアノ弾き
紀
こひびとの横顔の泛く湖あかり
舟
裸身に刻む秘めしその名を
帆
心太嘘のかろさに滑り落ち
哲
白寿を迎へ口達者なり
清
大正の母の着物はグラム買ひ
帆
猛禽類の鬱病の夜
紗
ディノサウルスうごめく玩具箱に月
帆
一番人気秋鯖定食
紗
しみじみと酌んで味はふ新走
晴
李賀の詩集を披く秋寂ぶ
紀
ナウ 久方の座に連なりてあなうれし
晴
鍵穴洩れてくるラプソディ
紀
風を見る丘尋めゆけり枯野道
清
革手袋に残るぬくもり
舟
深川に其角せんべい老舗あり
哲
料峭睨む不動明王
晴
吹雪きては宙炎えたたす花大樹
紀
老いてふ愉楽さへづりのなか
帆
令和元年七月十八日 首尾
於 杉並セシオン