【解纜】世吉「コクトオの耳」の巻

クリックで拡大▲

世吉「コクトオの耳」の巻 

   捌 別所真紀

   夏あかつきジャン・コクトオの耳ひろふ

   真紀

    潮騒とほく星の涼しき      

    清良

   まぼろしの山上﨟を追ひかけて    

   緋紗

    古陶の気品金つぎの碗      

    哲子

   唐うつし鋭き眼差しの鑑定士     

   鵠舟

    いづくともなく六段の曲     

    菜帆

   濡れ濡れと月光流す硝子ビル      

   清

    ワインセラーにひそむこほろぎ   

    紀

ウ  鳥葬の村に学者の来る寒露       

   帆

    すすき・きちかうデラシネの旅   

    紗

   ひたすらに待つよ甘美な罠仕掛け    

   同

    鞭しなやかにロマの少女は     

   千晴

   逃避行板門店の左右より        

   舟

    黒衣抱へる核の鞄を        

    帆

   凍月のみしみし響く二十五時      

   晴

    義士焼三つふところに入れ     

    哲

   灰猫の如きおのれの安息所       

   舟

    歳の始めの烏鷺の闘ひ       

    晴

   リサイクル百均ワゴン立志伝      

   紀

    つひにばれたか闇の財投      

    舟

   疎開児の植えし三春の花愛し      

   哲

    はつかに萌ゆる外苑の芝      

    清

ナオ 小町忌のゆるゆる解けし忘れ霜     

   紀

    ゆさはりで聴く外っ国の唄     

    晴

   マスターの深煎り珈琲媚薬とも     

   帆

    わたしの背骨を弾くピアノ弾き   

    紀

   こひびとの横顔の泛く湖あかり     

   舟

    裸身に刻む秘めしその名を     

    帆

   心太嘘のかろさに滑り落ち       

   哲

    白寿を迎へ口達者なり       

    清

   大正の母の着物はグラム買ひ      

   帆

    猛禽類の鬱病の夜         

    紗

   ディノサウルスうごめく玩具箱に月   

   帆

    一番人気秋鯖定食         

    紗

   しみじみと酌んで味はふ新走      

   晴

    李賀の詩集を披く秋寂ぶ      

    紀

ナウ 久方の座に連なりてあなうれし     

   晴

    鍵穴洩れてくるラプソディ     

    紀

   風を見る丘尋めゆけり枯野道      

   清

    革手袋に残るぬくもり       

    舟

   深川に其角せんべい老舗あり      

   哲

    料峭睨む不動明王         

    晴

   吹雪きては宙炎えたたす花大樹     

   紀

    老いてふ愉楽さへづりのなか    

    帆

  令和元年七月十八日 首尾

  於 杉並セシオン