三吟歌仙「シュガーポット」の巻
狩野康子さんと連句をご一緒させてもらう機会を得た。
一度もお会いしたことがない狩野康子さんとどうやってご一緒したかというと、小池正博さんが捌きで、わたしと小池さんはメールでやり取りをし、小池さんと狩野さんはFAXでやり取りをして、進めていった。
連句とはその場でみんなが集まって、もしくはオンライン上でやり取りして、進めていくようなイメージがあるけれど、やり方はたぶんいろいろある。次に句を付ける人が決まっていれば、その人だけに手渡して、その人がまた次の人に手渡す…そんな感じでバトンタッチしていくのもいい。手渡し方も、その時代や場所でそれぞれ違っていてもいい。
この連句を巻いている時わたしは毎日がめまぐるしく日に日に疲弊していて、いつも真夜中とか寝る前の髪の毛を乾かすような時間に必死に付句を考えていた。
付句を考える時はいつもと違う頭の部分が動いている気がする。頭も身体もへとへとに疲れていても、連句の世界のことを考える時間は、あの時のわたしには確かに必要な時間だった。
ドライヤーの音を聞きながら、甘い霧の向こうから届いた句に身を委ねていた。(門野)
三吟歌仙「シュガーポット」の巻
捌 小池正博
冬深しシュガーポットに糖満ちる
門野 優
寒鴉飛び交うタワーマンション
小池正博
雑踏の中吉報を携えて
狩野康子
木管楽器こなす旧友
優
有明に思い出せない名がひとつ
正博
こぼさぬように露草の露
康子
答えなら菊人形の懐に
優
少し待ってねそれはネタバレ
正博
碧い目と金髪好きと言われても
康子
南の島の花嫁になる
優
高台に石の巨像が並び立ち
正博
平均寿命さぐる戸籍簿
康子
月の船新任医師を乗せてゆく
正博
終戦日には鯛焼きを買い
優
うり坊は原子炉建屋遊び場に
康子
お帰りなさい山の呼び声
正博
夕桜あの世とやらを透かし見ん
康子
春灯青く滲むコンビニ
優
屯して風やわらかに回し飲み
正博
希臘数字を唱え自慢げ
康子
靴下に穴が空いても気にしない
優
ライフワークに挑む無頼派
正博
堕落論梅雨雷で行き止まり
康子
金魚の奥の君を見ていた
優
理由なく逢えないことも蜜のあじ
正博
魂ほのと微熱持ちたる
康子
平穏な世界を願うチャンティング
優
チェスの一手で変わる局面
正博
ドラキュラの城へ立ち寄る寒の月
康子
暦の果を焚き付けとして
優
座禅組む邪念は沸いてくるけれど
正博
耳をぴくりと板戸絵の象
康子
本当は見つけてほしいかくれんぼ
優
田を耕せば金印が出て
正博
媼舞い翁の謡う花の下
康子
根付も揺れる弥生尽です
正博
二〇二二年一月九日 首 二月二八日 尾