【解纜】 歌仙「蝶の風信」の巻
歌仙 「蝶の風信」の巻
捌 渡辺 柚
春昼や大海刻を留めたる
柚
窓辺に届く蝶の風信
真紀
弥生尽落着の茶をまづ点てて
みどり
細面なる遠来の客
わこ
たましひが少し先行く二十日月
志乃
物の音澄みし哲学の道
わ
ウ 陶片のアラビア呪文実山椒
紀
鏡の国に美少女の発つ
り
手放しの猫好きがゐて恋すてふ
乃
「私の罪」をほのと匂はせ
紀
きぬぎぬの改札通る右左
祐
ツアーコンダクターどっと疲れる
わ
生牡蠣にレモン絞ってシャブリ白
り
突貫工事凍月の罅
わ
クラスター爆弾持ちて平和説き
紀
このごろ増える無党派無糖派
祐
花の舞ひ花のあそべるされかうべ
り
薄きスカーフ選ぶうららか
わ
ナオ 虻容れて耳そば立てる紙袋
乃
論語の素読習ふ団塊
紀
夜をこめて一言主に逢ひにゆく
り
十四歳の羽化の始まる
乃
杯に充つ致死量の愛飲み干して
紀
汗まで美しき閨の楊貴妃
わ
西蔵に緑の薔薇があるといふ
り
ほほゑみたまふ露坐のみほとけ
祐
針の目をくぐるラクダか盗っ人か
り
健忘症のまま卒寿とか
紀
バラライカ爪弾く月の辻楽士
祐
丸いポストにうそ寒の犬
わ
ナウ 烏瓜最後の万歳誰にする
り
嬰のよだれは金銀の糸
乃
毬ほどの地球儀廻すからからと
紀
人の輪ふくらむ宙のふくらむ
り
花筏蝌蚪の卵胞飾りをり
乃
灰の水曜鐘霞む邑
執筆
* 「私の罪」香水マイ・シン
平成十九年三月十五日首尾 於 セシオン杉並