【解纜】歌仙「指しなやかに」の巻
歌仙「指しなやかに」
捌 江下緋紗
思惟仏の指しなやかに冴返る
緋紗
くれなゐ仄と芹の水茎
真紀
地虫出づ旅のプランを思案して
清良
迷路を抜ける黄昏の風
柚
濡れぬれと海より昇る夏の月
千晶
男の厨房鮎と格闘
清
ウ 「樫の女王」を制し愛馬の昂りて
紀
目隠しされてどこへ行くのか
柚
見も知らぬメールばかりの恋ゲーム
晶
微熱の午後のスカルラッテイ
紀
糸杉のねじれひとつを増やしをり
柚
村の鎮守に供す今年酒
晶
跳人らの腰の鈴飛ぶ中通り
柚
未来の月に誰そ棲むなん
良
ちちろ虫堕ちよ堕ちよと唆す
紀
奈落へ続く長き階段
晶
花の絵を残し特攻帰らざる
柚
孵化する蝶の翅のをののき
紀
ナオ 貝寄風の浜に異国の舟の来て
清
検疫を待つ暮遅き窓
柚
沈黙と測りあへるほど愛あらば
紀
トルソーとなる閨のそのとき
柚
逝きてのち修羅となりたる母を知り
清
橋の真中濃き冬の虹
同
デラシネの身にしんしんと雪催
晶
膝を屈することを拒めり
清
鬱病の内閣秘書官鸚鵡飼ふ
紀
空回りするβマックス
柚
望の夜は引手鳴り出す箱箪笥
紀
木の芽時雨を享くる仕合せ
晶
ナウ ハロウィーンの児はポケットを膨らませ
柚
鍵穴漏れてくる喜遊曲
紀
怒濤よく岩を噛みたる日本海
清
振り子運動永久のふらここ
柚
花吹雪空にとどまる気配して
紗
春やむかしを偲ぶ語り部
執筆
令和二年二月二十日
於 セシオン杉並