【猫蓑会】 歌仙「蛍かな」の巻

歌仙「蛍かな」の巻

　　　捌　高塚霞

樹下深き昏き水より蛍かな　　　　　

高塚　　霞

　瞳凝らせば夏の瞬　　　　　　　

　石川　　葵

地図上の見知らぬ街に夢馳せて　　　

江津ひろみ

　ふらりと入る四つ角のカフェ　　　　　　

　霞

七夕の笹さらさらと月昇る　　　　　　　　　

葵

　酸漿鳴らす姉と弟　　　　　　　　　　　

　み

ほつれ毛を上げて女将は秋刀魚焼く　　　　　

霞

　貫き通すささやかな嘘　　　　　　　　　

　葵

齢ぐらいほんとのことを教へてよ　　　　　　

み

　円周率はπで表す　　　　　　　　　　　

　霞

少年はローラースケート足となし　　　　　　

葵

　きつと未来は山の向かうに　　　　　　　

　み

遥か望む常念岳は冬化粧　　　　　　　　　　

霞

　煤払終へ月の本堂　　　　　　　　　　　

　み

世話役は三里にでかい灸据ゑて　　　　　　　

葵

　明日の予定を書き出してみる　　　　　　

　霞

落花霏霏遠き記憶のこま送り　　　　　　　　

葵

　海市に浮ぶ古都の楼閣　　　　　　　　　

　み

旧街道輪を描く鳶うららけし　　　　　　　　

霞

　Ｕターンして農業を継ぐ　　　　　　　　

　み

恋人は洗ひざらしの作業服着て　　　　　　　

葵

　はじめましてと青い目の嫁　　　　　　　

　霞

言葉よりくねくねとボディーランゲージ　　　

み

　餌をねだつて甘鳴きの猫　　　　　　　　

　葵

百物語お江戸上野に掛かる小屋　　　　　　　

霞

　昼寝いつしか座敷童と　　　　　　　　　

　み

ほどほどに生きてめでたく白寿なり　　　　　

葵

　癖くつきりとロッキングチェア　　　　　

　霞

重たげな月に琥珀のウイスキー　　　　　　　

み

　初猟待ちて準備万端　　　　　　　　　　

　霞

愛用の厚手の上着冬近し　　　　　　　　　　

葵

　エアターミナル言語飛び交ふ　　　　　　

　霞

想ひ出は見えないけれど宝物　　　　　　　　

み

　博士課程も残り一年　　　　　　　　　　

　葵

三番叟踏み納めてふ花衣　　　　　　　　　　

霞

　両手のひらに受ける淡雪　　　　　　　　

　み

　　令和六年六月二十六日　首
　　令和六年九月二十三日　尾
　　於　文音