【草門会】胡蝶「海夭々」の巻
胡蝶『海夭々』留書
虎の夜食 山地春眠子
この日久しぶりに会った中村安伸さんから『虎の夜食』という句集を頂戴した。安伸さんは『新撰21』(若手俳人の俳句選集)のメンバーの一人。昭和四十六年(一九七一)生まれだから、私の子供の世代。
これはたぶん光をつくる春の遊び
黄の薔薇の一輪愛し一輪踏む
鳥帰る東京液化そして気化
など、刺激的な句が並ぶ。
もう一人、子供より孫の歳に近い霞さんが座に加わってくれて、菜帆さんと土竜さんが後押ししてくれて、おかげで年寄はなんとか勝手放題の胡蝶を満尾できたのでした。
注をいくつか。
オ6 フラッシュモブ(flash mob)は、インターネット上や口コミで呼びかけた不特定多数の人々が申し合わせ、広場などに集まり、突如として音楽などのパフォーマンスを行って周囲の関心を引いた後、解散する行為。
昭和のコンサイスには載っていないが、電子辞書の「ジーニアス英和」には「瞬間暴徒(群衆)」と直訳風の訳語と解説があるから、英語の世界では十年も二十年も前からあった言葉のよう。日本でも今の若い世代は普通に使っているそうだ。
ウ5 千利休が秀吉を招いたとき、茶室に一本の朝顔を活け、他はすべて刈り取った故事を換骨奪胎したもの。従ってここで「利休」とは言っていない。
ナオ1 「立ち別れいなばの山の峯に生ふるまつとし聞かば今帰り来む」の歌を貼っておくと迷子が帰って来るというおまじないがあるそうな。
なお、ナウ1もおまじないである。
ナウ2 刻みうどんはきつねうどんの親戚。薄味の油揚を小さく刻んで載せてあるもの。三十年昔、祇園の酒場で、おかみが締めに必ず出前を取ってくれた。
ナウ5 月を出しそびれて、窮余の「月花一句」。
胡蝶「海夭々」の巻
捌・山地春眠子
矜羯羅の水晶の目や野分立つ
西川 菜帆
鴟尾を照らして月躍り出る
進藤 土竜
終点の先へコスモス迂回して
中村 安伸
食品庫には酒・魚・財布
高松 霞
学問といふ厳密に淫しをり
山地春眠子
フラッシュモブの最初はドラム
土竜
ウ セーラー服自転車に髪なびかせて
菜帆
夏に夢中の君を迎へに
霞
噴水が濡らしたけれど恋文です
安伸
黒渦巻の浮かぶ絵唐津
菜帆
秀吉を侘助一枝活けて待つ
土竜
地震の涯より届く呟き
菜帆
ナオ おまじなひして迷ひ猫いま帰る
霞
浮力揚力表面張力
土竜
隠し味隠し包丁習ひ嫁す
菜帆
柚子湯ざんぶと溢れ出づるよ
土竜
凍蝶を見てゐる耳を見てゐたり
安伸
断食しても癒えぬ腹痛
土竜
ナウ 葬列に親指ぎゆうと握る子ら
菜帆
雨の祇園で刻みうどんを
春眠子
トランプのジョーカーだけが抜けてゐる
霞
光を混ぜて春の杣山
安伸
海夭々花雲浩々月耿々
春眠子
恐惶謹言清明の候
土竜
(平成二十九年九月十五日首尾 於・滝野川会館)