三吟歌仙「不器用な箱」の巻

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 佐々木紺さんに「連句新聞で少人数の連句特集を組むので、やりませんか」とお声をおかけしたところ、「それなら奇蹄さんと霞さんと三人でやりたいです」と言われ、楠本奇蹄さんをお誘いしたところ、「連句のことはわかりませんが……」と入ってくださり、三ヶ月をかけて歌仙を巻かせていただいた。楽しかった。途中、紺さんが北斗賞を受賞してキラキラしていたり、奇蹄さんが鎌倉殿にハマってふわふわしていたり、高松がぎっくり腰をやってメソメソしていたりした。

 今季のトピックスは、2021年から2022年にかけて、新形式を取り上げてきました。2023年は、少人数で巻く連句、主に両吟(2人でやる連句)三吟(3人でやる連句)にフィーチャーしていきます。

 少人数で巻く連句は、反射神経が鍛えられると思います。なんていったって、すぐに順番が回ってくるからね。そして、なんといっても、信頼関係がなければできないと思います。私の句をあなたに委ねる。あなたの句を私が受け取る。匿名でない、捌きもはっきりしない、自分が止めたら流れが止まるという、微かな緊張感が緩やかに、少しの感想と少しの日常とともに、挙句へと続いていく。(高松)

三吟歌仙「不器用な箱」の巻 

紙切つて紙よりもどる蝶ひとつ    

佐々木紺

 風の光ればしろい逡巡      

 楠本奇蹄

どこだつて日永 時計の針消して   

高松 霞

 泡立つことも遠浅の海         

 紺

さめてなほ湿る手すりよ月の暈      

奇蹄

 少し離れてここでさやけし       

 霞

末枯へとりけらとぷす撒けば散り      

 石になれない膚をさがして      

 奇蹄

やめとく。君が言うから赤ランプ      

 (実は視線に崩されさうな)      

 紺

払暁に舌の溺れるとき無痛        

奇蹄

 最後の最後まで山びこが        

 霞

砂嵐抜けてキューバへ夏の月        

 五月蠅なす神ひんやり座る      

 奇蹄

投票を終えて睫毛を爪弾けば        

 酒を吸い込むチェロの洞かも      

 紺

花の渦ときおり幻肢疼くやに       

奇蹄

 ポストイットに雪解けの明日      

 霞

スーツケースすべてひらいて鷹鳩に     

 汀は靴を忘れてしまふ        

 奇蹄

泣く前にここで母印を押してみろ      

 霊長類を降りてかろやか        

 紺

切干のかくも豊かなパラグラフ      

奇蹄

 カーテン閉じて夜にさせない      

 霞

暗算のひどくはやくてウヰスキー      

 飴玉ほどの旅、苦笑かよ       

 奇蹄

うつぶせでまばたきしてもあなたなの    

 たつたひとりに告げる弱点       

 紺

月光をmotherらはそれぞれあをく    

奇蹄

 ストンと割れば柚子に猫舌       

 霞

ゆく秋に一反木綿ひらひらと        

 暦めくりて雲へと還り        

 奇蹄

不器用な箱に閉じ込めて雨よ        

 また貝釦育ててしまふ         

 紺

かさぶたに薬の沁みず花惜しむ      

奇蹄

 いま暖かい風を含んで         

 霞

  首 令和四年十月十三日
  尾 令和五年一月二十三日
  於 文音